ちうにちを考える

中日ドラゴンズを浅く薄く考えます

豪腕博志は復活する

 

鈴木博志を初めてちゃんと見たのは昨年のドラフトの時だった。見たと言っても投げてる姿とかではなく、顔を。それまで中日の指名候補の1人というので一応登板動画のチェックくらいはしていたが、まじまじと顔を見るのはこの時が初めてだった。

衝撃的だった。ヤマハの女子社員に囲まれながらドラゴンズの帽子を被ってポーズを取るスーツ姿の鈴木博志はどう見ても40代半ばの豪傑な営業課長にしか見えないのだ。これが高卒社会人の21歳だと言われてどれだけの人が信じるだろうか。爽やかさとは対極にある見るからにふてぶてしい面構え。おっさんくさいを通り越して、もはやおっさんそのものだ。

 

だが同時にこの投手が確実にプロで成功する事もひと目で分かった。近年こそプロ野球界もいわゆるスマートなイケメンがずいぶんと増えてきたが、一昔前までは年齢よりも老けてみえる、いや貫禄のある男らしい男が主流で、爽やかな二枚目が多いサッカー界に対しての金ネックレス、ぶかぶかのトレーナー、セカンドバッグの三種の神器を身につけた「ザ・おっさん」なプロ野球という棲み分けができていた時代。鈴木博志はまさにあの時代のプロ野球選手を彷彿とさせる面構えだったのだ。

山﨑武司、中村武志、井上一樹、宣銅烈など脈々と受け継がれる“ドラゴンズ顔”の正統な後継者の登場に私の期待はみるみるうちに高まっていった。

さらに背番号はドラ1選手としては珍しい「46」。これは「例え地味でもタイトルホルダーに輝いた土谷鉄平さんのような選手になりたい」という本人たっての希望に沿っての事だそうだ。

 

嘘こけ

 

衝撃だった誠也&タナキクマル斬り

 

2度目に衝撃を受けたのはシーズンに入って半月ほどが過ぎた4月21日のカープ戦だった。待望のプロ初勝利をあげたこの試合の鈴木博志の投球は半年以上経った今でも色褪せることなく思い出す事ができる。

 

重圧がかかる場面すら、鈴木博にとっては楽しくて仕方がない。同点の8回2死二塁。打席にはリーグを代表するスラッガー・鈴木誠也。イニング途中の登板は初めて。だが「誠也さんが代打で出てくる計算をして準備してました。すごい打者との対戦だったのでワクワクしてました」。湧き上がる思いを全てボールに込めた。
 1ボール2ストライクから投じた4球目。138キロの外角低めカットボールで空振り三振。小さくグラブをたたいた。

4月22日付 中日スポーツ

 

さらに回を跨いで9回のマウンドにも立った鈴木はカープ自慢のタナキクマルを三者凡退に仕留めてプロ初勝利を挙げたのだった。

この時の鈴木博志は強打者相手に投げるのが楽しくて仕方ないのが画面越しにも伝わってきた。最速157キロの直球を惜しげもなく投げ込み、ふいに意表を突くように小さく曲げてタイミングをずらす。投球術と言えるほど高尚なものではないが、若者らしい怖いもの知らずな無鉄砲さは見ていて気持ち良かった。

だが一抹の不安もあった。この手のタイプは怖さを知ったあとにどうなるかが重要なのだ。関係なく自分の投球を続けられればいいが、縮こまった逃げの投球を覚えてしまうと厄介だ。果たしてこのあとすぐに鈴木博志はプロの怖さを思い知る事になり、残念ながら不安は的中してしまう。

 

バレンティンに砕かれた自慢の直球

 

衝撃の初勝利から間もない5月3日の神宮球場。2点差に詰め寄られてなおも2死一塁という場面で岩瀬仁紀のあとを受けて鈴木博志がマウンドに送られた。打席にはバレンティン。一発出ればたちまち同点という厳しい場面だ。

実はこの2日前、鈴木博志はバレンティンにプロ初被弾を浴びていた。デビュー以来並み居る強打者をねじ伏せてきた自慢のストレートを内角高めに投げ込み、ものの見事にバックスクリーンへはじき返された。完全な力負けだ。

すぐにやってきたリベンジの機会。しかし新人の投じる真ん中に入った失投をシーズン本塁打日本記録保持者が見逃してくれるはずもない。打った瞬間それと分かる当たりが左中間スタンドに悲鳴とともに消えて行く。

ここから鈴木博志はおかしくなった。豪速球はただの棒球に変わり、つまらない四球も増えた。交流戦後、一度は立ち直りの兆しを見せて空位だったクローザーを任されたりもしたが、8月12日にまたまたバレンティンに痛恨の逆転2ランを浴びて二軍落ち。

シーズン序盤の「今年のドラ1は当たりだ!」との声はたちまち萎み、最終的には「いまいち」という評価にまで落ちていった。

 

鈴木を潰したのはどう見てもベンチワーク

 

だが鈴木博志は本当に怖さを知ってダメになってしまったのか。そりゃ怖さを知れば誰でも多少は臆病にもなるが、バレンティンに打たれてからの鈴木博志はすっかり魅力が半減して別人になってしまった。いわゆるメンタルの問題か?それも少しはあるだろうが、それよりも起用法の悪さに潰された被害者の一人だという側面が強いのではないか。

今季のドラゴンズを語る上で、特に投手陣に関してはめちゃくちゃな起用法は避けて通れない問題だ。試合内での文字通りの起用法だけじゃなく、ブルペンとの連携の拙さだったり、計画性の無い登録抹消のやり繰りだったり。ナゴヤドームを本拠地にしながらリーグ防御率最下位を記録したのはどう考えも投手陣個々の問題ではなくベンチワークがうんぬんかんぬん……。これ以上は単なる愚痴になるのでやめておこう。

 

阿波野&門倉コーチに期待

 

新コーチの評判がすこぶるいいらしい。各投手の欠点を早々と指摘し、修正するためのアドバイスを的確な言葉で伝える。大野雄大なら「フォームに溜めを作れ」。それだけならただの指摘だが、門倉コーチが「10㎝の薄い壁を意識してフォームを固めよう」とか具体的なイメージを話すと、選手は腑に落ちるようだ。

鈴木博志の場合は「考えすぎるな」。コースを狙おうとかボール一個分の出し入れとか細かい事は気にせず内角と外角の二分割で豪速球を投げ込めば抑えられるという阿波野コーチの指摘だ。この考えを可視化したのが右半分を青く染めたベース板。鈴木も「すごく分かりやすかった。せっかくいい球を持っているんだから、細かいコースを狙わず、だいたいでいい。ストライクゾーンに力強く投げろということでした」と笑顔を見せたという。

 

選手の能力を最大限に引き出す手助けをするという、ここ何年かのドラゴンズには無かった「当たり前の事」が秋季キャンプでは連日伝えられてくる。

 

いやが応にも来季の投手陣には期待してしまうね

 

鈴木博志もまだ2年目。飛躍の年になるといいな